台風の被害に備えるためにオーナーが知っておくべきこと

「不動産投資」管理の重要なポイント(第10回)

この記事の概要

  • 大雨と強風が猛威を振るう台風は、残念ながら、日本各地に想定外の被害をもたらすこともあります。賃貸住宅も予期せぬ被害を受けることもあり、その度に賃貸管理会社は、真摯に緊急対応に向き合っている状況です。
  • 今回は、賃貸住宅オーナーとして知っておくべき、台風の被害への備えや、被害があった際の対応、責任の考え方について解説します。

台風の被害に備えるためにオーナーが知っておくべきこと

1.建物の保険に注意、風災と水災は補償が違う

様々な災害のリスクを担保する際に、まず思いつくのは火災保険です。

ある賃貸物件のオーナー様は、台風で所有されているマンションの駐輪場の屋根が一部外れてしまい、加入していた建物の火災保険で修理しました。しかしほっとしたのも束の間、今度は別の台風の集中豪雨で床上浸水が起こり、1F廊下の電気設備が濡れて故障してしまったのです。仕方ないのでまた火災保険で修理しようと保険会社に連絡したところ、なんと今度は保険金が出ないと言われてしまいました。これはなぜかというと、駐輪場の屋根が外れた原因は風災、電気設備の故障の原因は水災であり、このオーナー様の加入していた火災保険は水災が担保されていなかったので、保険金が出なかったのでした。

火災保険ではすべての商品が「風災・雹災・雪災」を担保していますが、昨今の住宅用火災保険商品では「水災」がオプションであることが多いため、このようなことが起こります。また、近くに川が無い地域でも、台風による集中豪雨による排水の逆流で水災被害がおこることもあります。集中豪雨による洪水で建物が全損・半損してしまった場合、水災の保障が付いていなければ保険金は下りないことになります。水災が心配な方は、加入されている火災保険に「水災」のオプションが付いているかどうかを確認しておきましょう。

2.入居者から被害に対する損害賠償を求められたらどうする?

台風によって建物が被害を受け、オーナーが入居者から賠償を求められるケースも数多く発生しています。例えば、地下の電気室が浸水して水が出なくなったり、エレベーターが止まったりした場合、入居者から「復旧までホテルに泊まったので宿泊費を払って欲しい」と言われたら、オーナーがそれを負担しなくてはならないのでしょうか。

実は、このケースは被害の原因が台風なので不可抗力とされ、建物の維持管理について過失がなければオーナーには法律上の賠償責任は発生しません。建物が原因で第三者に損害を与えてしまった場合の賠償には、火災保険の施設賠償責任特約が使えるのですが、このケースでは支払い対象になりません。その理由は、そもそも大家さんに法的な責任がないからです。台風により窓が割れ、家財が水濡れしたケースなども同様です。

多くの賃貸借契約書には、免責事項として「地震、火災、風水害等の災害、盗難などその他不可抗力と認められる事故によって生じた損害について、オーナー又は入居者は互いにその責を負わないものとする。」などという条文が入っています。しかし、それを盾にドライな対応をしてしまうと、以降の入居者との関係にひびが入りかねません。こういう時のために入居者自身が加入している家財保険があるのですから、それを使ってご自身で対応してもらうようにすると良いでしょう。臨時費用保険金が出る場合もあるため、ホテル宿泊費などの思わぬ出費にも役立ちます。

壊れた屋根のイメージ

3.居住不能になってしまった場合の考え方

もし、台風で大きな被害があり、屋根が壊れたり床上浸水したりして、入居者が居室に住み続けられなくなったらどうなるのでしょうか。この場合も入居者に対する補償はオーナーの火災保険では対象外となります。

このような場合、民法には規定がありませんが、賃貸借契約は当然に終了するというのが判例・通説となります。賃貸借契約書にも、「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。」などという規定がある場合もあります。そして、2020年4月から施行される改正民法では、616条の2に、賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了が規定されたため、今までの判例・通説がより明確になりました。また、繰り返しになりますが台風により建物が全損したことは不可抗力のため、「住めなくなったので引っ越し費用を出して欲しい」と言われたとしても、オーナーに責任は無いことになります。

4.居室が一部だけ使えない場合はどうなるか

では、一部滅失の場合はどうでしょうか。居室の一部が使えなくなったけれど住むことはできるという場合は、賃貸借契約は存続します。今までのケースと同様にオーナーには建物の一部が滅失したことについて責任がないため、損害賠償責任も負いません。

では、入居者がすべての損害を被るのかというとそうではなく、現行の民法には、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときには、賃借人はその滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができる」と定められています。つまり、入居者は家賃の減額請求をすることが可能なのです。

そして改正民法では、611条に「賃借物の一部が使用及び収益出来なくなった場合、借主の請求を要せずに当然に賃料の減額がされる」と規定されました。つまり、民法改正後は居室の一部が使えなくなったら、入居者の家賃減額請求を待たずして減額の割合を話し合い、対応しなければなりません。これは、民法改正以降に新規に契約した分だけでなく、更新契約分にも該当するので注意が必要です。

このような建物の一部滅失による家賃収入の減少に備えるためには、またも保険が大活躍します。火災保険の家賃収入特約を付加しておけば、火災保険の補償項目と同じ事由によって家賃が減少した場合に、その間に得られるはずだった家賃収入を補償してもらうことが可能です。

今後も台風が来ることが予測されます。災害が起こることは避けられませんが、備えあれば憂いなしです。この機会にオーナー様自身が加入している建物の火災保険や、入居者が加入している家財保険、使用している賃貸借契約書の条文を確認し、変更できるものは対応しておくことをお勧めします。万一の時の対応にもきっと役に立つはずです。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

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