あらためて「賃貸不動産の広告ルール」について考える

「不動産投資」管理の重要なポイント(第8回)

この記事の概要

  • 賃貸不動産の広告には細かいルールがありますが、消費者保護の観点から違反の取り締まりが年々厳しくなっています。投資用不動産をお持ちのオーナー自身も、空室の入居者募集に際して不動産会社と打ち合わせをする際に、このルールを知っておくととても役に立つはずです。適切な内容で広告表示し、トラブルを防ぐためのポイントについて解説します。

あらためて「賃貸不動産の広告ルール」について考える

1.賃貸不動産の広告表示のルールはどこが決めているのか

不動産広告に関しては、宅地建物取引業法第32条に誇大広告の禁止が規定されていますが、それだけではありません。不当景品類および不当表示防止法にも規定があり、事業者や業界団体が自主的に広告についての規約を作ることができると定められています。

不動産業界はどうなっているかというと、広告の適正化を通して業界の社会的信用の向上を図ることを目的として、各地に不動産公正取引協議会が作られています。そこが定めているのが「不動産の表示に関する公正競争規約」であり、不動産業者が守るべき広告表示ルールの基本となっているのです。ちなみに公正取引協議会の監督官庁は、消費者庁と公正取引委員会となっています。

公正競争規約に違反すると、警告を受けたり違約金を徴収されたりするなどの罰則を受けることになるのですが、最近では重大な規約違反を撲滅するために更なる取り組みがなされています。首都圏不動産公正取引協議会では、特にWEBの広告において、規約に違反して厳重警告・違約金支払いの措置を講じられた不動産事業者が多く、主要な不動産情報ポータルサイトへの広告掲載を1カ月以上停止するという厳しい施策を2017年1月からスタートさせており、実際に毎月数社がこの措置を受けています。これは事実上の業務停止と同じくらいの打撃があるため、不動産会社は「広告表示ルールを守る」ということに今まで以上に力を注がざるを得ない状況になっているのです。もちろんオーナー様も、募集を頼んでいる不動産会社が不動産情報ポータルサイトを利用できなくなったらとても困りますよね。ルールをしっかり守ることが、お互いのためにますます重要になっているのです。

2.間違いやすい不動産広告表示について確認しよう

まずは、公正競争規約の「表示」に関するルールについて、違反となりやすい表現を順番に見ていきましょう。

不動産広告で徒歩所要時間を表示する場合には、80mを徒歩1分で換算するというルールを知っているオーナー様は多いと思いますが、距離表示についてもっと細かく決まりがあることをご存じでしょうか。直線距離ではなくグーグルマップ等でルート検索するときのように実際の道路距離で測ること、端数が出たら1分に切り上げること、大きな道路を渡るために横断歩道や歩道橋まで遠回りするときはその距離を含めることなどが規定されています。厳しいことばかりではなく、開かずの踏切などの待ち時間や、ゆっくりしか登れない急な坂道などは考慮しなくて良く、地下鉄などの駅では改札口からではなくA1出口などの出入り口から測って良いことになっています。近いことをアピールしたいばかりに「スーパー目の前」「近くに公園あり」「駅から徒歩50歩」などを見かけることがありますが、違反になりますので注意してください。

金額不記載の違反も非常に多く見られます。「家賃保証会社の加入必須」ではダメで、実際にかかる保証料を記載する必要があります。火災保険の費用、鍵交換代なども同様です。

駐車場が必要なエリアでは近隣に駐車場があることをアピールしたくなりますが、確保していない限り「近隣に駐車場あり」という表示はしてはいけません。

間取りに関しても犯しやすい間違いがあります。「うちの物件のロフトは広いから居室として表示し、専有面積にも入れて欲しい」などとオーナー様に頼まれることがありますが、納戸やロフト等、建築基準法上の基準を満たさないものを居室表示すると違反になってしまいます。また、納戸は専有面積に含めることができますが、ロフトは面積に含めることは出来ません。

ロフトのイメージ

3.入居者プレゼントの落とし穴

公正競争規約には「景品」に関するルールもあります。景品とはつまりプレゼントのことですが、これに価格の上限があることをご存知のオーナー様はあまりいらっしゃらないと思います。

景品には2種類あり、懸賞によって当選者だけに提供する「懸賞賞品」と、懸賞によらないでもれなく提供する「総付け景品」ではルールが違います。懸賞賞品は、「スタッフとジャンケンして勝った方に〇〇が当たる!」などが該当し、取引額の20倍または10万円のいずれか低い価格のものまでがOKで、提供できる景品類の総額はこの懸賞に関わる取引予定総額の2%以内となっています。総付け景品は、「契約者全員に〇〇をプレゼント!」などの場合で、取引価格の10分の1または100万円のいずれか低い価格のものまでが許されています。ここでいう取引額とは、この不動産取引で得ることが出来る報酬額、つまり仲介手数料のことなので、例えば家賃10万円の物件で仲介手数料1カ月の場合では、「懸賞賞品」は10万円、「総付け景品」は1万円を超える景品類の提供はできません。「契約者にはもれなく新品のエアコンをプレゼントします!」などと書いてある広告を時々見かけますが、これは「総付け景品」に当たるため、よほど高額の家賃の物件でなければルール違反となってしまいます。

この景品に関わるルールは取引に付随する場合のみ対象となるので、例えば「お部屋をお探しのお友達を紹介して頂き成約になった場合には商品券を差し上げます!」というケースは該当しません。ただし、紹介者だけでなく契約者にも差し上げる場合は、その分だけには金額の規制がかかるということになります。

最近ではオーナー様が直接広告掲載できるサイトも出て来ていますが、「私が歩けば徒歩5分だ!」などと仰ってそのまま登録してしまっている方をお見かけしたこともあり、広告表示のルールについてもっとオーナー様たちに知っていただく必要があると感じていました。オーナー様にとっても、ご自身がルールを知った上でどのように広告したら良いかを不動産会社と話し合うことは、無用なリスクを減らすことに繋がります。より安定した不動産経営のために、ご自分の不動産広告についてぜひ関心を持って頂きたいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

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