賃貸住宅の暮らしに変化が?入居者が欲しい設備・仕様について考える

「不動産投資」管理の重要なポイント(第6回)

この記事の概要

  • 空き家が増加し人口が減っていく中で、「賃貸だからこの程度で良い」という時代は終わりを迎えました。日々新築される賃貸住宅を見ると、持ち家に勝るとも劣らない設備や仕様のものが増えてきています。時代の変化が速いため、入居者にとって無くてはならない設備は数年前と比べて大きく変わっており、気づかないうちに入居者ニーズに合わなくなっている可能性があります。今の入居者が望む暮らし、必要と感じている設備や仕様について考えてみます。

賃貸住宅の暮らしに変化が?入居者が欲しい設備・仕様について考える

1.「あったらいいな」が「あって当たり前」に

日々新築される投資用不動産を見ていると、時代とともに設備や仕様のニーズの大きな変化が反映されているように感じます。例えば今新築アパートの計画があった場合、施工会社に「設備は標準的なものがつく予定です。」と言われたとしたら、多くの管理会社はエアコン、カラーテレビモニター付きインターホン、システムキッチン、浴室乾燥機、温水洗浄便座は「当然付いている」と思うでしょう。そして、追焚き付き浴槽やWi-fi無料は「あったらいいな」と考えると思います。入居者ニーズの変化のスピードは速くなっており、「あったらいいな」がすぐに「あって当たり前」になっています。

ニーズの変遷を、エアコンを例にとって考えてみましょう。エアコンは自分で購入して設置するものと考えられていた時代から、リビングなどに1台あるのが当たり前の時代を経て、全室に設置される時代へと移行し始めています。数年前の新築は「自前のエアコンを以前の部屋から取り外して持ってくる人にとってマイナスになるから」と、敢えてエアコンがない部屋が作られていることも多かったのですが、今は予算が許せば全室設置されることの方が多くなりました。今の入居者の「エアコンなどの設備はなるべく自分で所有したくない」というニーズの変化があります。エアコンを所有すれば、故障の修理や引っ越しの時の取り外し・運搬・再設置も自己負担となります。引っ越し先の選択肢にエアコンが全室完備の物件があるならば、面倒が無いようにそちらを選ぶ入居者が多くなってきたのは、消費者心理として自然な流れです。

入居者ニーズに押され、時代とともにオーナーに所有権がある設備が増えたことで、設備故障リスクに対応する保険商品も登場しています。「あって当たり前」の設備が増えていく流れはますます加速していくでしょう。

共働きのイメージ

2.キーワードは「家事負担の軽減」

既存の投資用不動産に設置する設備は、何を優先したら良いのでしょうか。今の入居者のニーズに合わせるとしたら、「家事負担を軽減するための設備」は欠かせません。想定されるターゲット層がファミリー、カップルの物件はもちろん、忙しく働く一人暮らしの会社員も、多かれ少なかれ家事に時間を割いています。

内閣府の男女共同参画白書(令和元年版)によると、かつては少数派だった「夫婦共働きの世帯」は年々増えて、「夫が働き専業主婦がいる世帯」と比較すると1996年時点ではほぼ同割合となり、2018年には2倍を超えて多数派となりました。家事労働を担っていた専業主婦がいなくなり、仕事をしながら家事もするのが当たり前となり、「家事負担を軽減したい」というニーズが高まったのです。

そんな流れの中、投資用不動産オーナーとして注目したいのが次世代住宅ポイント制度です。2019年10月の消費税引き上げに備え国土交通省が開始している制度で、賃貸住宅も対象となりますが、その中には「子育て支援、働き方改革」に資するリフォームも含まれています。具体的には「家事負担軽減に資する設備の設置」という項目で対象となる工事例が挙げられており、それによると、ビルトイン食器洗機、掃除しやすいレンジフード、ビルトイン自動調理対応コンロ、浴室乾燥機、掃除しやすいトイレ、宅配ボックスなどを設置する際にポイントが発行されます。

掃除しやすいレンジフードやビルトイン自動調理対応コンロは、つまりはシステムキッチンの一部です。掃除しやすいトイレは、次世代住宅ポイント制度の事務局に登録された型番の製品を見てみると、当たり前のように温水洗浄機能付きです。浴室乾燥機も対象となっており、今の新築の投資用不動産で「あって当たり前」の設備が勢ぞろいしていますので、設置を迷っているオーナー様には導入の良い機会だと思います。

そして、注目すべきはビルトイン食洗器です。これは、今の新築の投資用不動産でも「あるのが珍しい」設備ですが、共働きの家庭は賃貸でも自分で購入して設置している方が増えてきています。小型の食洗器もありますが設置によって調理スペースが狭くなってしまうため、設備として付いていれば、自炊派の共働きの入居者に喜ばれて差別化になると思われます。今までは設置に迷う設備でしたが、家賃が比較的高めの物件でキッチン交換を検討する時期であれば、この制度を利用しての導入を検討しても良いでしょう。

家事のイメージ

3.新築やリフォーム時に注意する点

家事負担を軽減するのは設備だけではなく、そのための生活便利家電も増えています。そのため、築年数が古い投資用不動産ほどコンセントの数が足りないという事態が起きているのです。リフォーム時に合わせてコンセント増設を検討してみると良いでしょう。

コンセントの数や位置を決めるために、どんな生活便利家電が人気なのかを見ていきます。まずは料理に関する家電です。炊飯器、電子レンジ、トースター、コーヒーメーカー等、どの家庭にもある家電の次に欲しくなるのが、毎日の食事作りの時間を短縮する家電です。最近人気が急上昇しているのは自動調理鍋で、レシピに従って材料を入れてタイマーをセットしておけば帰宅時に料理が出来上がっています。フードプロセッサーも人気ですが、時短調理のためにはキッチンに出しっぱなしにするコードレスハンドブレンダーが好まれています。後片付けには食器洗い乾燥機が活躍しますが、設置に必要なのはアース付きコンセントです。ウォーターサーバーを導入している家庭も増えていますが、最近のものはデザイン性が高くなり、リビングやダイニングに置くケースも増えているようです。

次に、掃除関連の家電を考えてみます。外せないのはロボット掃除機で、今やリカちゃん人形の家にも付属品となっているほど当たり前の家電となりました。リビングにロボット掃除機を想定したコンセントが欲しいところです。コードレススティック掃除機も人気を集めていますが、日常的に使用するので出し入れしやすい場所に置きたいはずです。

次は、洗濯に関する家電を見てみましょう。面倒なアイロンがけの手間を軽減するため、ハンガーにかけたまま衣類のしわを伸ばせるスチームアイロンが人気です。クローゼットの近くや、ウォークインクロ―ゼットの内部の高めの位置にコンセントがあると便利です。また、ズボンの折り目を簡単に付けられるズボンプレッサーも、毎日スーツを着る会社員に人気の家電となっています。スタンド部分があってスペースを取りますが、使用したいのは寝室かクローゼットの近くだと思われます。

この他、今の入居者の生活でコンセントが必要なものに、スマートフォンの充電器、空気清浄機、電動アシスト付き自転車のバッテリーの充電器などが挙げられると思います。スマートフォンはベッド脇で充電したいというニーズが高いですし、空気清浄機はリビングや寝室で使用したく、電動アシスト付き自転車のバッテリーは玄関の近くで充電したいはずです。

このように入居者が所有しているであろう家電に合わせてコンセントを増設することは、空室対策だけでなく長期入居にも繋がると思います。しかしそのためには、入居者の家族構成、持っている家具の種類や配置、その暮らし方まで想像することが必要なのです。入居者の生活はこれから更に大きく変化することが予測されます。入居者のニーズやその暮らし方に興味を持ち、時代の変化に敏感でいることもオーナーとして大切であると思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

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