本当に居住用財産の3000万円特別控除の要件を満たしていますか?

本当に居住用財産の3000万円特別控除の要件を満たしていますか?

マイホームを売却する理由はいろいろあります。転勤となった、テレワークになったので自宅に仕事場が必要になった、子供が大きくなって結婚当初に購入したマンションが手狭になった、子供が独立して現在の自宅では広すぎるなど、ライフステージの変化により売却を検討される方が多いかと思います。今回は、マイホームを売却する際に適用される「居住用財産の3,000万円特別控除」の特例の税務上の注意点について説明します。

不動産の譲渡所得とは?

不動産を売却したことによって生じた所得を譲渡所得といいます。不動産を購入した時よりも売却時に地価が上がるなどして、購入した時の金額(取得費)より売却収入(譲渡収入)が大きい場合には譲渡所得が生じます。譲渡所得の計算方法は以下のとおりです。

譲渡所得=譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)

不動産の譲渡所得に対しては、他の所得(給与所得など)と分離して所得税と住民税が課税されます。譲渡所得が生じる場合には、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。譲渡所得がゼロもしくは、損になる場合には課税されることはありません。

居住用財産の3,000万円控除の特例

居住用不動産を売却して譲渡所得が生じた場合、譲渡所得から3,000万円まで控除ができるという特例です。つまり、譲渡所得が3,000万円以内であれば課税されません。居住用財産の3,000万円特別控除が適用された場合の税額の計算方法は以下のとおりです。

課税譲渡所得=譲渡所得-最高3,000万円
税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)

  • 所有期間により税率が異なります。(下記【不動産の譲渡所得の税率】参照)

【不動産の譲渡所得の税率】

※所有期間
期間 5年以下 5年超 10年超
居住用 39.63%
所得税30.63%
住民税9%
20.315%
所得税15.315%
住民税5%
①課税譲渡所得6,000万円以下の部分 14.21%
(所得税10.21% 住民税4%)
②課税譲渡所得6,000万円超の部分 20.315%
(所得税15.315% 住民税5%)
  • 所有期間は取得から譲渡の年の1月1日現在で何年経過しているかで判断します。
  • 相続・遺贈または贈与により取得した場合は、原則として前所有者の取得時期を引き継ぎます。
    同じく取得費も原則として前所有者の取得費を引き継ぎます。

この居住用財産の3,000万円特別控除の特例の適用を受けるための主な適用要件とポイントは以下のとおりとなります。

【主な適用要件とポイント】

  1. a現在、主として住んでいる自宅を売却したとき。(セカンドハウスや賃貸マンション等は不可)
  2. b居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却したとき。(売却までの用途不問)
  3. c家屋を取り壊した場合は、上記bの範囲内で、家屋を取り壊した日から1年以内にその敷地の売却に関する契約が締結されているとき。(取り壊し後、敷地を賃貸その他の用に供した場合には不可)
  4. d転勤等で単身赴任の場合において、配偶者等が居住している家屋を売却したとき。
  5. e共有の居住用財産を譲渡した場合、共有者の持分の範囲内において各人ごとに適用。
  6. f住宅ローン控除との重複適用は不可。
  7. g譲渡する相手が、譲渡者の配偶者や親・子など直系血族、生計を一にする親族、同族会社等でないこと。
  8. h居住期間の制限なし。
  9. i連年適用の制限:前年、前々年に居住用の特例の適用を受けていないこと。

なお、課税譲渡所得を計算した結果がゼロになる場合でも、特例の適用を受けるためには譲渡した年の翌年3月15日までに申告をする必要があります。

「居住用」とはどのような状況をいう?

居住用財産の3,000万円特別控除を適用するにあたっての「居住用」とは、居住者が自己の生活の拠点としている家屋をいい、一時的な目的で入居した家屋は認められません。生活の拠点か一時利用かどうかは、その人の配偶者、家族の日常生活の状況、その家屋の入居目的、構造および設備等を総合的に勘案して判定します。単に住民票があるからといって、居住用といえない場合もあります。

①家族が残り、本人は単身赴任の場合

一時的にマイホームに住んでいなくても、その原因がなくなれば戻ってくることが明らかな場合には、本人の居住用に該当することとなります。したがって単身赴任中でも居住用に該当することもあります。

②所有者が居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却した場合

居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば、居住用として扱われます。なお、居住の用に供さなくなった後、売却までの用途については空き家のままでも、賃貸に出していても構いません。

所有者が居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却した場合のイメージ 所有者が居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却した場合のイメージ

③居住用の家屋を取り壊し、家屋がない更地にしてから売却を行った場合

居住用の家屋を取り壊して売却する場合、取り壊し後1年以内に売却契約をし、かつ、居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの期間内に売却すれば居住用として扱われます。更地になった後、駐車場等、賃貸その他の用途に供した場合は、居住用の特例は受けられません。

居住用の家屋を取り壊し、家屋がない更地にしてから売却を行った場合のイメージ 居住用の家屋を取り壊し、家屋がない更地にしてから売却を行った場合のイメージ

敷地の一部を売却した場合は?

老朽化した自宅の建て替え資金のために自宅敷地の一部を売却した場合の居住用の特例はどうなるでしょうか。

老朽化した自宅の建て替え資金のために自宅敷地の一部を売却したイメージ 老朽化した自宅の建て替え資金のために自宅敷地の一部を売却したイメージ

現に存する居住用家屋の敷地の一部を売却した場合には、その売却がその家屋と同時に行われたものであるときは、居住用財産の3,000万円控除の特例を受けることができますが、その売却がその家屋と同時に行われていないときは、原則として居住用の特例の適用を受けることができません。ただし、③の要件をすべて満たしている場合には、その家屋の取り壊し跡地の一部売却でも居住用の特例の適用を受けることができます。

なお、家屋を取り壊さずに庭先の一部だけを売却したような場合は、居住用の特例の対象とはなりません。

家屋の所有者と土地の所有者が異なる場合は?

居住用の特例でいう居住者とは、家屋の所有者でその家屋に居住している者のことをいいます。したがって、居住用の特例は原則として家屋の所有者に適用され、土地の所有者については適用されません。ただし、家屋の所有者の譲渡所得金額から3,000万円特別控除が全額控除しきれないときは、下記の要件のすべてに該当する場合に限り、その控除しきれない金額を土地所有者の譲渡所得金額から控除することができます。

  1. aその家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡があったこと
  2. bその家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、※生計を一にしていること
    • 親族が同居している場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除いて、これらの親族は生計を一にする親族と取り扱われます。
  3. cその土地等の所有者は、その家屋の所有者とともにその家屋を居住の用に供していること

事例で見てみましょう。

【事例】

マイホーム(妻が15年前に相続で取得した土地に夫が家屋を建築)を2021年3月に5,000万円(家屋400万円、土地4,600万円)で売却しました。

取得費・譲渡費用は1,600万円(家屋400万円、土地1,200万円)です。

土地は妻所有で家屋は夫所有であり、ともに子供といっしょにこの家屋に同居しています。

土地は妻所有で家屋は夫所有のイメージ 土地は妻所有で家屋は夫所有のイメージ

<税金計算>

【譲渡所得】

400万円 - 400万 = 0円

【税額】

0円(所得税・住民税)

【譲渡所得】

4,600万円 - 1,200万円 = 3,400万円

【譲渡課税所得】

3,400万円 - ※3,000万円 = 400万円

  • 夫で控除しきれない特別控除の残額を妻の譲渡所得金額から控除します。

【税額】

400万円 × 14.21% ≒ 56万円(所得税・住民税)

  • 税額計算は円単位で計算しますが、便宜上「1万円未満」を切り捨てて計算しています。

居住用財産の3,000万円特別控除と住宅ローン控除はダブルで適用できる?

住宅ローン控除は、住宅ローンを借入れてマイホームを新築・購入・増改築した個人が受けられる税額控除の制度です。この住宅ローン控除を適用すると、その適用開始年とその前2年および後3年については、旧自宅の売却について3,000万円特別控除などの特例が使えません。したがって、たとえば同一年内に居住用の戸建てを譲渡して居住用のマンションへと買い換える場合、以前住んでいた戸建ての譲渡について居住用財産の3,000万円特別控除を選択すると、新たに購入したマンションについて住宅ローン控除の適用を受けることはできませんので、どちらが有利か選択して適用する必要があります。

特例利用の可否には十分に確認を。ペナルティのおそれも…

居住用の3,000万円特別控除の特例は不動産の売却特例のなかでもよく活用される特例です。適用できれば売却による税金を抑えることができ、その抑えられた税金分を住み替え資金などに充てることができます。ただし、居住用の特例が使えると思っていたが、要件を満たさず申告後に修正申告が必要となるケースもあります。この場合は特例適用なしで計算することにより増える本税分だけではなく、加算税や延滞税などのペナルティが発生します。また居住用の特例を適用したいために一時的に住民票だけ移しただけでまったく居住していないような場合には特例の適用はできず、悪質な場合は重加算税のような更に重いペナルティも発生します。特例の可否については、十分に確認してから適用するようにしましょう。

作成日:2021/11/15

村岡 清樹さん 村岡 清樹さん
  • 税理士法人
    東京シティ税理士事務所
  • 副所長 パートナー税理士
  • 村岡 清樹(むらおか せいき)
  • (むらおか せいき)
    村岡 清樹
資産税のプロフェッショナルでコンサルティング経験が豊富。不動産会社、ハウスメーカー、證券会社、新聞社等のセミナー、社員研修を数多く行う。アパート・マンションの税金対策・マイホームの税金・不動産の譲渡税金・相続税対策・土地の有効活用・不動産事業承継対策を得意とする。
  • この記事は2021年4月1日現在の法令に基づいて作成しています。
  • この記事では税法の規定を簡易な表現で説明しています。実際のお取引での税法上の適用の可否については、税理士・税務署等にご確認のうえ判断していただくようお願いします。
  • 監修:東京シティ税理士事務所