• Q.「はじめての大家さん。」アパートを売却したら、消費税を支払う必要あるの?

現在アパートを保有し、お部屋を貸しています。資産の組み換えを進めており、売却を検討しているのですが、アパートを売却したことのある友達から「売却の際には消費税がかかるかもよ。」と聞きました。私の場合、消費税を支払う必要があるのでしょうか。

回答と解説

消費税の「免税事業者」であるかの見極めが必要です。
消費税を支払うか否かは、消費税の「課税事業者」および「免税事業者」かで判定されます。
今回の相談者がどちらなのか見極める必要があります。今回は判定の一例※をご紹介しますが、判定の仕方は複数あり複雑なので、詳細は税理士や税務署にご確認ください。

消費税の申告・納付 判定の一例※
課税事業者 必要 基準期間(個人の場合、原則2年前)の「課税売上高」が1,000万円以下の場合、「免税事業者」。
免税事業者 不要
2年前がポイント!

課税売上高とは…

さて、上記判断の一例で「課税売上高」という用語があります。「課税売上高」とは商品やサービスの提供に伴う一般的な「売上高」とは異なり、固定資産(例えば建物)の売却や雑収入などの営業外収入も含まれます。
不動産の取引で整理すると、以下のとおりです。相談者は住宅の貸付を行っていましたが、課税売上高に当たらない取引となります。

課税売上高となる不動産取引
貸付収入 建物の貸付 住宅の貸付
(貸付期間1ヵ月以上のもの)
×
上記以外の事務所・店舗・倉庫などの貸付
土地の貸付 更地の貸付
(青空駐車場を含む)
×
駐車場の貸付
(青空駐車場を除く)
土地・建物の売却 土地の売却 ×
建物の売却

建物の売却は要注意

上記表のとおり、建物の売却は「課税売上高」に当たる取引となります。相談者が今年度に建物価格1000万円超でアパートを売却し、2年後貸店舗を取得して、コンビニに賃貸する事業を始めたケースを想定すると、2年後には「課税事業者」となり、テナント収入は消費税の申告納付義務が生じるために注意が必要です。

【消費税課税事業者の判定】

2022年 2023年 2024年 2025年 2026年
課税売上高 1,200万円※1 0円 200万円※2 200万円※2 200万円※2
判定 課税事業者 免税事業者 免税事業者
  • ※1 2022年に賃貸アパートを売却。建物対価1,200万円
  • ※2 テナント収入

もっと知りたい!!税理士の深掘り

消費税の課税事業者になった場合、消費税の納税額はどのように決まるのでしょうか。
消費税は、商品を買ったりサービスを受けたときに、その対価の10%(一定の食料品は8%)を消費者が負担する間接税です。消費税は、生産や流通のそれぞれの段階で、商品や製品が販売される都度、その販売価格に対してかかります。課税事業者は受け取った消費税から、支払った消費税を控除(仕入税額控除)して差額を納税します。

消費税の納税額 =
課税売上にかかる消費税 - 課税仕入にかかる消費税

インボイス制度が2023年度から導入されます

2023年10月1日から消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書保存方式(インボイス制度)が導入されます。適格請求書とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

インボイス制度のイメージ

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インボイス制度のイメージ

【適格請求書の記載事項】

①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

②取引年月日

③取引内容(軽減税率対象品目の場合はその旨)

④税率ごとに区分した対価の額及び適用税率

⑤消費税額等

⑥交付を受ける事業者の氏名又は名称

適格請求書発行事業者の登録

2023年10月1日から登録事業者になる場合は、2021年10月1日から2023年3月31日までに登録申請書の提出が必要です。

賃貸事業を考えている相談者にも影響あり

インボイス制度は、消費税の納税義務のある課税事業者は仕入れ先から適格請求書の発行を受けなければ、課税仕入にかかる消費税の控除(仕入税額控除)ができなくなり、納付額が増加するという特徴があります。賃料で考えると、支払側が消費税の控除が出来ない分の値引きを要求してくることも想定されます。
免税事業者では適格請求書を発行できないので、相談者が、コンビニに賃貸する事業のケースでは、コンビニからテナント料の値引き要求がある可能性があるということです。

適格請求書発行事業者の登録のイメージ

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適格請求書発行事業者の登録のイメージ

今回は割愛しますが、むりやりに適格請求書発行事業者になるとデメリットになる場合があることや、下記のとおり経過措置があるなど、適格請求書発行事業者になるか否かは、難しい問題です。まだ、インボイス制度導入まで時間はありますが、税理士等に相談して検討するようにしましょう。

経過措置

◆2023年10月1日~2026年9月30日
免税事業者からの課税仕入れにかかる消費税の80%相当額が仕入れ税額控除の対象となります。

◆2026年10月1日~2029年9月30日
免税事業者からの課税仕入れにかかる消費税の50%相当額が仕入れ税額控除の対象となります。

作成日:2022/06/28

村岡 清樹さん 村岡 清樹さん
  • 税理士法人
    東京シティ税理士事務所
  • 副所長 パートナー税理士
  • 村岡 清樹(むらおか せいき)
  • (むらおか せいき)
    村岡 清樹
資産税のプロフェッショナルでコンサルティング経験が豊富。不動産会社、ハウスメーカー、證券会社、新聞社等のセミナー、社員研修を数多く行う。アパート・マンションの税金対策・マイホームの税金・不動産の譲渡税金・相続税対策・土地の有効活用・不動産事業承継対策を得意とする。
  • この記事は2021年4月1日現在の法令に基づいて作成しています。
  • この記事では税法の規定を簡易な表現で説明しています。実際のお取引での税法上の適用の可否については、税理士・税務署等にご確認のうえ判断していただくようお願いします。
  • 監修:東京シティ税理士事務所