風水害多発時代における火災保険選びのポイント

初めての不動産購入で知っておきたいこと VOL.12

この記事の概要

  •  近年、日本各地で台風や集中豪雨などの風水害が激甚化しています。それに伴い、住宅や自動車の被害を補償する損害保険金の支払額が増大しています。2018年の台風21号による支払保険金は約1兆678億円。翌2019年は台風15号、19号、10月の大雨による支払保険金が約1兆700億円となり、2年連続で1兆円を超えました(日本損害保険協会調べ)。今夏も九州・沖縄や東北地方が豪雨被害に見舞われています。今回は、私たちの生活の基盤となる住宅を守るための火災保険について、火災保険に詳しいファイナンシャルプランナーの清水香さんの話をもとに解説します。

風水害多発時代における火災保険選びのポイント

火災保険で補償できる事故や災害。補償の対象は?

住まいなどを自然災害や偶然な事故から守るためにあるのが火災保険です。加入は任意ですが、住宅ローン契約時に金融機関から債権保全のため加入を求められるのが一般的で、火災保険(火災共済含む)の加入率は82%(内閣府2015年度試算)と高めです。しかし、加入率の割には、火災保険の内容には詳しくないという人が多いのが実情です。実際「火災保険は火事のためのもの」程度の認識の人もいるようです。では、そもそも火災保険とはどんな保険なのでしょうか。

火災保険は火災、破裂・爆発、水漏れなど「偶然な事故」と、落雷や風災など「自然災害」で被った損害を補償する保険です。近年は台風や大雨など自然災害が各地で相次いでいるため、火災保険は自然災害に備える意味合いがより強くなっています。

表1)火災保険で補償できる事故や災害

偶然な事故 火災、破裂・爆発、水漏れ、物体の落下・衝突、騒じょう、盗難、破損・汚損
自然災害 落雷、風災、ひょう災、雪災、水災

火災保険が補償する対象は、以下に示すように「建物(住宅)」と「家財」ですが、家庭用燃料電池や給湯器、太陽光発電パネルなど、建物に付随して設置される設備も補償可能です。

表2)個人が加入する暮らしまわりの火災保険の補償対象

住宅 居住用の建物(住宅)と門、塀、垣、物置、自家用車専用車庫など
家財 生活用の家具、電化製品、食器類、衣類、その他生活用品

ただし、生活用品であっても、以下のように対象にならない場合もあるので注意が必要です。

  • ・自動車や自動二輪車などの車両(車両保険の対象)
  • ・通貨や預金通帳(自宅で盗まれた場合は「盗難」として補償される場合がある)
  • ・一定額以上の骨董品や美術品など

火災保険が必要な3つの理由

なぜ火災保険が必要なのでしょうか。清水さんは主な3つの理由を挙げます。

1つ目は、災害で住宅や家財に損害を受ければ「損害額が数千万円におよぶ場合があり、手元の資金で対応するのが難しくなる」からです。住宅ローンの残債があれば、被災後もローン返済は続きます。

2つ目は、「たとえ『もらい火』でも、火元に損害を補償してもらうことはできない」からです。民法の特別法である通称「失火責任法」という法律では、重大な過失がある場合を除き、火災で他人に損害を与えても損害賠償責任は生じない旨が定められています。自分の建物と家財は、自分で守ることが前提です。

3つ目は、「被災しても公的支援が限られている」からです。公的支援の代表的なものに被災者生活再建支援制度がありますが、支給されるのは最大でも300万円です。被災後の生活再建において、とりわけローン返済を抱える世帯には十分な金額とは言えません。

表3)火災保険が必要な3つの理由

1.損害額が数千万円に及ぶ場合があり、手元の資金では対応するのが難しくなる

2.たとえ「もらい火」でも、火元に損害を補償してもらうことはできない

3.被災したときの公的支援が限られている

火災保険に加入する際、戸建て住宅、分譲マンション、賃貸住宅のそれぞれにポイントがあります。「賃貸住宅の場合、加入が必要なのは家財の火災保険だけです。火災保険とセットで地震保険にも加入しておけば、火災保険では対象外となる地震被害にも備えられます。住宅の再建や修繕についてのコスト負担が発生しない賃貸住まいは、被災時の経済的リスクが一番低い住まい方と言えます。」(清水さん)。

戸建て住宅の場合はどうでしょう。「建物については火災保険に加入しても、家財には加入していないケースがあります。しかし、失った家財を再度調達するとなると、かなりの金額になります。震災で家を流された方にお聞きしたのですが、家族4人分の服や布団など、季節ごとに生活必需品を買いそろえなくてはならず、一年中お金が必要だったそうです。建物だけでなく家財の火災保険にも加入することをお薦めします。」(清水さん)。

「分譲マンションでは、住宅内すなわち専有部分と、家財の火災保険には区分所有者が加入します。躯体部分、エントランス、給排水設備などの共用部分については、マンション管理組合が火災保険に加入します。マンション管理組合が適切に風災補償や水災補償、地震保険を付帯していなければ、被災時の建物修繕は困難になります」(清水さん)

「マンションの4階だから水災補償はいらない」は本当?

豪雨による河川の氾濫で建物などが被害を受けた際に役に立つのが、火災保険に付帯する水災補償です。一般的な水災補償の認定基準では、「床上浸水」「地盤面から45㎝を超える浸水」「保険対象に保険価額(見込まれる損失額の最高見積額)の30%以上の損害」のいずれかの基準を満たした場合、保険金の支払い対象になります。

「マンションの4階で浸水の心配がないので水災補償は不要」と考える人がいるかもしれませんが、清水さんは「そうとも言い切れません」と言います。「集中豪雨で排水が追い付かずにベランダに雨水が溜まり、室内が浸水したり家財が破損したりすることも考えられます。損保会社によって異なりますが、こうした場合も水災補償の対象となることもあります。損害保険では『何が原因で損害が起きたか』で、適用される補償が変わるのです」。集中豪雨が原因の損害であれば、水災補償の対象になりえるということです。

水災をはじめとする自然災害で住まいが被害を受ける可能性があるかどうかを知りたいときは、ハザードマップが参考になります。ハザードマップとは、自然災害による被害の軽減や防災対策を目的に、被災想定区域や避難場所などの位置を表示した地図のことで、市区町村に作成義務があります。居住する自治体のホームページで、ぜひハザードマップを確認し、洪水、土砂災害など様々なリスクについて確認しておきましょう。

表4)水災補償の認定基準(最近の火災保険のよくある認定基準)

①床上浸水

②地盤面より45センチを超える浸水

③保険対象に保険価額の30%以上の損害

のいずれかに該当した場合に修理費実費にあたる保険金が支払われる。

*地下室の浸水については、①②のいずれになるかは保険会社で異なる。契約時に要確認

2024年以降に火災保険料が改定される見込み

2023年6月に、損保各社が保険料を決める際に参考にする「参考純率」が全国平均で13%引き上げられました。大規模な自然災害が相次いでいること、災害などで被害を受けやすい住宅の老朽化が進んだことから、近年、保険金の支払いがより一層増えています。そのため、近年の火災保険収支は赤字続きでした。加えて、火災保険料率のうち、これまで全国一律だった水災部分の保険料率が市区町村ごとの5区分となりました。つまり、今後は居住地により水災部分の保険料が変わることになります。この改定を受け、損保各社が見直しに着手するため、2024年以降に火災保険料が改定される見込みです。

保険料の上昇が避けられない場合、火災保険の加入や見直しのポイントは何でしょう。清水さんは「契約者がコントールできるのは『保険料の支払方法』と『補償の範囲』です。保険料の支払方法については、1年契約で毎年保険料を支払うより、5年契約で保険料を契約時に一括払いする方が保険料を抑えられます(5年間保険料が変わらない場合)。補償の範囲については、水災補償の付帯を検討する際、居住地のハザードマップを確認しましょう。不明点は、信頼できる損保代理店に相談するか、ネット損保会社のコールセンターや日本損害保険協会に問い合わせてみてもいいでしょう。」と言います。

最後に、被災した場合の保険請求手続きについて確認しておきましょう。以下に火災保険金の請求の流れを示します。最近ではウェブやスマホアプリ、LINEなどで連絡や請求手続きができる損保会社が増えています。「大災害になると損保会社に電話がつながりにくくなります。平時からスマホアプリやLINEでつながっていれば、すぐに保険会社に連絡ができます。」(清水さん)。

スマホでアプリにアクセスし、被害状況を撮影してアップロードすれば、AI(人工知能)が修理見積もりを算定し、保険金支払額を案内してくれる損保会社もあります。何日もかかっていた煩雑な請求手続きを簡単に終わらせることも可能になっています。万が一の場合に備えて、サービスの利用方法などを事前に確認しておくことをお薦めします。

表5)火災保険金の請求の流れ

1.保険会社か代理店へ被害の連絡 ←ネットやスマホで可能な場合も

2.立ち会い調査(被害物件確認)または修理見積もり確認 ←ネットやスマホで可能な場合も

3.保険金の確定

4.保険金請求〜保険金の入金

取材協力

清水 香 (しみず かおり)

CFP認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わる傍ら、ファイナンシャルプランニング業務を始める。2001年独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年生活設計塾クルー取締役就任(現任)。家計の危機管理の観点から社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合などでの講演活動なども行う。

記事制作

日経BPコンサルティング

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年8月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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