- 連載の第1回と第2回では一級建築士・水越美枝子さんのメソッドの基本を解説した。今回は応用編。「もの」が多い上にスペースは限られている家のリノベーション事例。収納力を強化するリフォームの実例で、「自然に片付く家」づくりの極意を紹介する。
N邸の1階の床面積積は、本連載第1回第2回でしたK邸の約3分の2。収納スペースとして使える空間は限られている上、「もの」が多いという問題も抱えていた。特に、料理好きの妻が長年コツコツと集めてきた食器類は、キッチンに収まり切らないほど。リビングには音楽を聴くのが趣味という夫のCDやDVDがあふれていた。この問題を解決するため、水越さんは「適所·高密度の法則」の適用範囲をさらに広げてリノベーションを実施した。
まず食器類。キッチンには天井までたっぷりある背面収納や吊り戸棚を付けた他、大皿を立てて収納できる専用棚を設置。これまで大皿は上にたくさんの皿が重ねられ、取り出しづらかったが、がぜん取り出しやすくなり、頻繁に使うようになったという。
ダイニングには、基本の収納スペースの上に、インテリアを兼ねた「見せる収納」を作った。ガラスの吊り戸棚に、お気に入りの食器を並べられるようにしたのだ。収納力がアップしたと同時に、眺めて楽しい空間が生まれた。
リビングにあふれていた「もの」は、ソファの後ろのデッドスペースを利用して解決。ここに、引き出し式の隠れ収納を作って、くつろぎのスペースを犠牲にすることなく、CDやDVDをすっきりと収めた。
ダイニング
「見せる」と「隠す」を巧みに組み合わせる
食器好きの妻が特に気に入っている漆の椀やティーカップなどはガラスの吊り戸棚に飾ることで、収納とインテリアを兼ねるスペースに。その他のカトラリーや小皿、文房具など見せたくない「もの」はすべて、下のカウンター棚に収まった。
トースター、食パン、コーヒーなど朝食に使うものもセットにして、ダイニングに収納。
カトラリー類の下は文房具。ジャンルは違ってもダイニングで使うものはすべてここに。
お気に入りの食器は、ガラスの吊り戸棚で見せる収納。カウンター棚の中は隠したいものがぎっしり。
キッチン
大皿や家電にも「指定席」をつくる
奥様は料理好き。食器だけでなく調理道具の数も多いが、調理台の背後にある引き出しと吊り戸棚には、食器、調味料、鍋、ボウルなどが、すべて手の届く範囲に隙間なく収納されている。調理家電や大皿にも専用の収納場所を設けた。食器がたっぷり収まる背後の収納。一緒にキッチンに立つことも多い娘や息子の妻にも、使いやすいと好評。
ダイニングから見えない棚裏には、炊飯器とパン焼き機をスライド式の台に載せて収納(写真左)。壁面には大皿を飾って収納(写真右)。客に好きな皿を選んでもらうことも。
リビング
デッドスペースにさりげなく収納を
くつろぐ場所であるリビングには収納スペースはあまり設けないというのが、水越ルールの基本。だが、収納スペースが足りない場合は、わずかなデッドスペースも無駄なく利用して、憩いの空間を妨げないさりげない収納を作る。
玄関のフォーカルポイント。アンティークのたんすを置き、その上に置き物や絵を飾る。
見せたくないものはすべて収まった、快適なダイニング。動線がスムーズなので、だんな様が配膳などを手伝う機会も増えた。
DATA
- 所在地●千葉県佐倉市
- 家族構成●夫(68歳·元会社員)、妻(61歳·主婦)
- 構造●木造2階建て
- 延べ床面積、間取り●約 111㎡、4LDK
- 費用●リノベーション920万円(1階のみ。和室を除く)
- 住み替え時期●2014年4月
- 設計●アトリエ・サラ(水越美枝子)
一級建築士の水越美枝子さん。
日本女子大学住居学科卒業。一級建築士事務所アトリエ・サラを秋元幾美さんと共同主宰。キッチンスペシャリスト。家事効率の良い住まいの設計やアドバイスに定評がある。著書は『いつまでも美しく暮らす住まいのルール』など
執筆:文/臼井美伸(ペンギン企画室)
写真/中村風詩人
協力:『日経おとなのOFF』(日経BP社)
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。