2017年公示地価 上昇続くが二極化が鮮明に

アナリストが解説 2017年公示地価

みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さん

国土交通省が3月に2017年の公示地価を公表しました。住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに、2017年公示地価のポイントについて解説していただきました。

商業地と住宅地、大都市圏と地方で違いが

まずは全体の動向から説明してください。

石澤:全国平均(全用途)では前年比0.4%プラスと2年続けて上昇しました。2年連続の上昇は、ミニバブルと呼ばれた2007~2008年以来のことです。ただし、全用途の全国平均が上昇したからといって、地価が押しなべて上がっていると考えるのは早計です。今回の公示地価で明確になったのは、さまざまな面で二極化が進行していることなのです。

例えば、商業地と住宅地の動向を比べてみましょう。商業地の全国平均変動率は2016年の0.9%上昇からさらに上がって、2017年は1.4%上昇となっています。一方、住宅地の変動率は2016年、マイナス0.2%でしたが、2017年は横ばいでした。つまり2017年の公示地価の上昇は商業地がけん引したもので、住宅地は取り残されているのです。

全国平均変動率の推移

全国平均変動率の推移

全国平均で上昇している商業地の中でも実は二極化が見られます。三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)とそれ以外の地方で明暗が分かれているのです。三大都市圏は2017年3.1%も上昇しましたが、それ以外の地方では0.1%の下落となっています。

商業地平均変動率の推移

商業地平均変動率の推移

地方は地価下落が続いているということですか?

石澤:地方の平均でみるとバブル崩壊後、基本的にはずっと対前年変動率がマイナスになっています。これは商業地も住宅地も同様です。ただし、そうした中でも、2017年の地方平均の変動率は、住宅地がマイナス0.4%、商業地がマイナス0.1%ですから、下落率は非常に低くなり、ほぼ横ばいの状態にはなっています。

また、三大都市圏以外をすべて地方と一括りで考えるのも危険です。札幌、仙台、広島、福岡といった地方経済圏の中心都市などは大都市圏と似た動きを見せています。地価上昇が著しい地点もたくさんあります。例えば、2017年の住宅地の上昇率1位から4位は仙台市若林区が独占しました。地下鉄東西線が開通した影響によるものです。

逆に三大都市圏のすべての地域が好調なわけでもありません。三大都市圏の中でも、二極化が進行しているのです。例を挙げれば、神奈川県三浦市、横須賀市、千葉県野田市といった場所は、三大都市圏ですが、全国の住宅地の下落率ランキングで上位となる地点を抱えています。

地価の上昇・下落にはどのような要因が影響しているのでしょうか。

石澤:今回の公示地価を見ると、上昇要因は主に3つにまとめられると考えています。まず1番目は、都市再開発が行われるなどの要因で不動産投資のターゲットとなることです。具体的には東京の銀座や広島市の中心部などが挙げられます。2番目は交通アクセスの整備が進むこと。これは前述の仙台市若林区や市電のループが実施された札幌市中心部などが具体例です。3番目は、観光・リゾート需要の舞台となることです。この要因の代表例がインバウンド需要が著しい大阪市の商業地。他にも京都市、軽井沢市、那覇市の一部地域が挙げられます。

一方、下落要因も3つにまとめることができるでしょう。1番目は地域の活力の低下です。人口減少や高齢化が進み、地元産業の衰退が著しい地域の不動産価格が上がることは非常に難しいのです。

2番目は交通アクセスの悪さ。高度成長時代やバブルの時期には大都市圏においてもあまり交通アクセスの良くない場所でも不動産開発が行われました。そういった場所はかなり苦しいのが現実です。それを象徴するのが千葉県柏市の状況です。市内には地価が上昇した地点がある一方で、全国住宅地下落率トップの地点も存在します。下落したのは駅からバスを使わなくてはアクセスできない地域です。こうした同一自治体の中における二極化があちこちで見られます。

下落要因の3番目は天災の影響です。大地震のあった熊本県の一部地域が代表的な例です。すでに起こった天災ではなく、今後予想される土砂災害や津波といったリスクが地価動向に影響していると見られるケースもあります。

今回の公示地価を分析した上で、住宅購入者へのアドバイスをお願いします。

石澤:まずは、二極化が進行しているのですから、将来を見据えて物件選びを慎重にすることです。今後、高齢化が進行するなど社会変化がある中で、重要な資産である不動産選びは人生に大きな影響を与えます。前述の通り、同じ自治体でも明暗が分かれています。わずかな違いが将来価値を左右することを意識してください。

もう1つは、特に東京圏に関しては、今回の公示地価の上昇傾向を鵜呑みにしないことです。2017年の公示地価は2016年の1年間の取引等に基づく調査です。2016年下期の動向さえ、必ずしも捉えているとは限らないデータなのです。2017年、東京圏の地価動向は少し弱含みになっています。こうした傾向は4半期ごとに地価動向を発表している国土庁交通省の「地価LOOKレポート」にも表れ始めています。

解説

石澤 卓志 

1980年代より一貫して不動産市場の調査に携わる。国土交通省・社会資本整備審議会の委員をはじめ、自治体、経団連等の委員や専門委員、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍。