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上昇傾向が全国に波及も二極化は継続~2020年地価公示~

不動産エコノミストが解説 2020年地価公示

公開日:2020年4月30日

この記事の概要

  • 3月に2020年の地価公示が公表されました。注目されるのは、活況が続く地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)以外の地方圏でも、全用途平均でようやくプラスに転じたことがあげられます。なお、今回公表された地価公示には、新型コロナウイルスによる影響は織り込まれておりませんので、不動産エコノミストに今後の地価への影響につき、心配な要素も解説していただきました。

国土交通省が3月、2020年の地価公示を公表しました。土地取引の指標にすることなどを目的に、2020年1月時点の標準地の正常な価格を公示したものです。不動産市場の動向に詳しい、日本不動産研究所の不動産エコノミストである吉野薫さんに、2020年の地価公示のポイントについて解説していただきました。

吉野薫さん

地方都市の上昇要因をチェックすべきと語る吉野さん

3月に国土交通省が2020年の地価公示を公表しました。まずは全体動向から解説してください。

吉野:前提として確認しておきたいのが、今回の地価公示が2019年の取引動向などを踏まえた2020年1月1日時点のデータであることです。当然、新型コロナウイルスの影響は含まれていません。それを反映するのは、今後発表される基準地価からになります。

ただ、だからといって、今回の地価公示に意味がないわけではありません。新型コロナウイルスは大きな問題ではありますが、いつかは必ず収束するでしょう。それより社会や国民の意識の変化の方が、長期的に地価に影響します。それを地価公示から読み取りましょう。

2020年の大きなトピックは、地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)を除く地方圏の全用途平均が、28年ぶりに上昇したことです。対前年平均変動率はプラス0.1%。2018年はマイナス0.5%、2019年はマイナス0.2%と徐々に回復し、ついにプラスに転じました。ちなみに商業地では、2019年にマイナスから脱却しています。それに続き2020年は、住宅地もマイナスではなくなりました。

表1 最近5年間の地価変動率のエリア別推移

(単位:%)

全用途 2016 2017 2018 2019 2020
全国 0.1 0.4 0.7 1.2 1.4
三大都市圏 1.1 1.1 1.5 2.0 2.1
東京圏 1.1 1.3 1.7 2.2 2.3
大阪圏 0.8 0.9 1.1 1.6 1.8
名古屋圏 1.3 1.1 1.4 2.1 1.9
地方圏 ▲0.7 ▲0.3 0.0 0.4 0.8
地方四市 3.2 3.9 4.6 5.9 7.4
その他 ▲1.1 ▲0.8 ▲0.5 ▲0.2 0.1

(単位:%)

住宅地 2016 2017 2018 2019 2020
全国 ▲0.2 0.0 0.3 0.6 0.8
三大都市圏 0.5 0.5 0.7 1.0 1.1
東京圏 0.6 0.7 1.0 1.3 1.4
大阪圏 0.1 0.0 0.1 0.3 0.4
名古屋圏 0.8 0.6 0.8 1.2 1.1
地方圏 ▲0.7 ▲0.4 ▲0.1 0.2 0.5
地方四市 2.3 2.8 3.3 4.4 5.9
その他 ▲1.0 ▲0.8 ▲0.5 ▲0.2 0.0

(単位:%)

商業地 2016 2017 2018 2019 2020
全国 0.9 1.4 1.9 2.8 3.1
三大都市圏 2.9 3.3 3.9 5.1 5.4
東京圏 2.7 3.1 3.7 4.7 5.2
大阪圏 3.3 4.1 4.7 6.4 6.9
名古屋圏 2.7 2.5 3.3 4.7 4.1
地方圏 ▲0.5 ▲0.1 0.5 1.0 1.5
地方四市 5.7 6.9 7.9 9.4 11.3
その他 ▲1.3 ▲0.9 ▲0.4 0.0 0.3

確かに、圏域別で変動率がマイナスの地域はなくなりました。地方四市を除く地方圏以外の状況はいかがですか。

吉野:住宅地も商業地も、上昇率は名古屋圏を除いて2019年よりも高くなっていますから、前年までの傾向が続いているといっていいと思います。中でも上昇が目立つのは地方四市です。四市の平均で住宅地がプラス5.9%、商業地はプラス11.3%とかなり高い上昇率になりました。中でも活況なのは福岡市です。住宅地はプラス6.8%で札幌市のプラス7.1%よりも少し低いですが、商業地はプラス16.5%で、他の三市を大きく引き離しています。やはりこれはインバウンド需要が影響しているのだと思います。

表2 地方四市の2020年の変動率

(単位:%)

住宅地 商業地
札幌 7.1 10.2
仙台 5.7 10.9
広島 3.1 7.7
福岡 6.8 16.5

名古屋圏がエリア別で唯一、2019年よりも上昇率が低くなっています。その背景として、災害の影響があったことを否めません。2019年は大雨などによる水害が全国的に目立ちました。名古屋圏では、海抜が低く浸水リスクの高い場所が少なくないため、そうした場所において昨年よりも地価下落幅が拡大した地点が散見されます。また、水害の被害を被った長野県や福島県の一部でも顕著に地価が下落した例が見られます。

圏域別ではなく、都道府県別に見た場合でも、住宅地も商業地も前年よりも1%以上下落したケースはほとんどなくなりました。住宅地では、2019年には7県あったのですが、2020年は福井県と和歌山県だけになりました。2019年、8県あった商業地は、2020年は島根県だけになりました。都道府県平均では全国的に地価下落はほとんど止まったことが読み取れます。そして、地価が上昇している都道府県の中には、インバウンド需要の強い場所が多いことも目立ちます。

また、インバウンド需要だけでなく、地方におけるマンション需要も商業地の地価に影響を与えています。インバウンド需要は、今回の新型コロナウイルスの流行で明らかなように一時的な変動が避けられませんが、地方におけるマンション需要の高まりといった潮流は、住民の暮らし方の変化という、穏やかですが長く続く流れに根ざしたものです。そうなると長い目で見れば後者の影響が非常に大きくなるので注目しておきましょう。

2020年、東京圏の状況はどのようになっていますか。

吉野:これまでと同様、上昇が目立つのは東京23区です。住宅地がプラス4.6%、商業地が8.5%ですから、地方四市よりは低いものの、全国平均は大幅に上回っています。

住宅地と商業地では上昇が目立つエリアが異なります。まず、住宅地で一番上昇率が高かった区は、荒川区(プラス8.8%)、2番目が豊島区(プラス7.5%)でした。こうした区で上昇が著しかった要因は、交通や生活の利便性が高い割には、旧来から人気の高い住宅地と比べて相対的な割安感があったことだろうと分析しています。

商業地で一番上昇率が高かったのは台東区(プラス14.9%)、2番目が港区(プラス10.1%)でした。台東区は全国の商業地変動率上位地点の10位に浅草1丁目が入ったことが象徴するとおり、インバウンド需要の追い風を受けています。港区は、従来のインバウンド需要やマンション需要に加えて、JRの高輪ゲートウェイ駅開業や浜松町駅周辺で相次ぐ再開発の影響を織り込んだ地点もみられました。

こうして見ると、東京23区に関しては住宅地も商業地も“実需”に支えられた上昇だと思われます。

2020年の地価公示は、基本的には昨年までと同様に上昇傾向が続いたということですが、注意すべき動きはありますか。

吉野:注意していただきたいのは、平均的な変動率は上昇しても、調査地点ごとに見ると下落が続いているケースも多いということです。たとえば地方四市の商業地を例にとると、調査対象となった383地点のうち、横ばい6地点を除く377地点が昨年よりも地価が上昇しており、地価下落地点はついにゼロとなりました。これをもって地方四市における商業地に関しては地価上昇の裾野が拡大した、といえるでしょう。しかし、地方四市を除く地方圏の商業地に限ると、実に調査地点の46%で地価の下落が続いています。

住宅地ではこうした傾向がより顕著であり、地方四市を除く地方圏では調査地点の51%で地価が下落し、上昇地点は29%に過ぎません。確かに過去の地価公示と比べれば地価上昇地点の割合が上昇しているので、平均をとれば上昇率はアップしているのですが、地価の二極化が解消に向かっているとは言い難い状況です。

そして、この現象は地方圏だけではありません。東京圏に限っても、住宅地の調査地点のうち58%が上昇した一方、20%はいまだに下落しています。地価動向の優勝劣敗が地方圏だけではなく大都市圏でも進んでいることを忘れてはなりません。

最初に今回の地価公示は新型コロナウイルスの影響は織り込んでいないという説明がありましたが、やはり、今後の影響は気になります。

吉野:近年、日本経済に影響を与えた感染症の流行の例として、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)と2009年の新型インフルエンザ(H1N1型インフルエンザ)が挙げられます。この際の地価動向をチェックしてみると、2003年はバブル崩壊後に長く続いた地価下落局面の真っ只中にありましたし、また2009年も金融危機の影響で地価が下落に転じたタイミングでした。そのため感染症の影響を単独で推し量ることは難しいのですが、少なくとも地価に顕著な影響を与える要因とはなりませんでした。

今回の新型コロナウイルスに関しても、一過性の流行に終われば地価上昇への影響は軽微で済むといいたいところですが、心配な要素もあります。その一つは、過去の2回のタイミングはたまたま景気拡大局面の初期段階と重なりましたが、今回は景気がピークアウトしつつある、あるいはしてしまったかもしれない局面だということです。景気拡大の始まりの時期には日本経済全体に勢いがありますから、ちょっとくらいの負の影響は吹き飛ばすことができます。一方、今回のような局面では、景気後退を助長する方向に作用し、相乗効果で不動産の実需にかなりの影響を与えるリスクがあります。

また、今回の新型コロナウイルスの影響が、世界経済、特に世界の金融に大きな影響を与える可能性にも警戒しなければなりません。近年、不動産市場は、金融市場との関係を深めてきました。世界のお金の流れが大きく変化するような事態に陥れば、日本の地価への影響も避けられません。

短期的には、新型コロナウイルスの流行は、インバウンド需要の激減というインパクトを不動産市場に与えています。その悪影響が金融面の要因によって増幅する可能性はあるのか。世界の金融市場の動向に注目しましょう。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究や、日本の不動産市場の国際化に関する調査に従事。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年4月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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