安易な分割や共有で不動産価値を落とす可能性も
問題は、不動産が複数あっても、不動産のままの分割案に関して相続人の合意が成立しない場合や、不動産のまま分割を実行した場合には価値を落としてしまう可能性が高い場合です。こうした時には一括して売却するという選択肢が浮上して来るでしょう。
特に、不動産を分割した場合に価値を落としてしまうことがないかが検討のポイントです。相続において不動産のまま分割する場合、土地なら遺産分割案にもとづいて分筆し登記する、建物なら遺産分割案にもとづいて区分所有権に分けて登記するという方法があります。
ただ、あまり広くない土地の場合、安易に分筆して登記すると、小さくなりすぎて使いやすい建物が建てられなくなったり、接道条件が悪くなったりすることで、不動産としての価値が落ちるケースがあります。
建物の場合、複数戸数のマンション1棟を対象に区分所有権に分けて相続するというのはありえます。しかし、相続財産は基本的に一戸建てやマンションの1戸なので区分所有権に分けるというのは現実的ではありません。
上記のようにうまく分筆や区分所有権による分割がしにくい不動産を複数の相続人が受け継ぐ場合、別のやり方として、遺産分割案に基づき持分を決めて「共有」にするという方法もあります。この方法には、遺産分割案通りに権利を分けやすいというメリットがあります。
しかし、「共有にして相続するのはあまりいい方法とはいえません。大きな理由は不動産としての利用価値が落ちてしまうケースが多いからです」と税理士は警告します。共有にすると、一部の相続人の持分のみを処分する場合、売りにくくなったり、買いたたかれたりすることが珍しくありません。また、不動産全部を売却したい場合には共有者全員の合意が必要です。さらに相続人が亡くなり次の相続が発生した際には、権利関係がより複雑になってしまい、利用価値がさらに落ちる可能性があります。
以上のように、不動産のまま無理に分割したり、共有にしたりするよりは、売却して代金を遺産分割案の通りに分けた方が、価値を損なうことなく、相続人全員が納得でき、後悔しない相続が実現できる可能性は高いといえるでしょう。