土地価格、建築コストともに高止まり 実需の限界突破で、大都市圏でも伸び率鈍化

アナリストが分析、不動産市場の展望(2017年上半期)

「2017年こそはマイホーム!」とお考えの方にとって、気になるのは2017年の不動産市場の動向でしょう。住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに、2017年の不動産市場のトレンドや注目ポイントについて伺いました。

2017年は消費税先送りによる混乱も解消

不動産市場で、まず注目すべきは土地価格の動向です。2017年の見通しはいかがでしょうか。

石澤:2016年の基準地価(2016年7月1日現在)は全国・全用途で見ると25年連続の下落でした。しかし、下落率は7年連続で縮小しています。しかも全国でも商業地は9年ぶりに下落から脱却していますし、東京、大阪、名古屋の3大都市圏については商業地は4年連続、住宅地も3年連続で上昇しています。大まかな傾向としては、人口が増加している地域は上昇、人口減や高齢化が進む地域は下落と、2極化が鮮明になりました。この傾向は2017年も続くでしょう。

それでは、大都市圏の土地価格は2017年も上昇するということでしょうか。

石澤:2013年くらいから土地価格の上昇が続いているため、東京圏などは高くなりすぎてしまい、一般の世帯が住宅を購入できる実需の限界を突破し始めています。これにより頭打ち感が出ているので、大都市圏については2017年も上昇しますが、伸び率は鈍化すると思います。

不動産価格を決めるもう一つの大きな要素である建築費の動向はいかがですか。

石澤:建築費は資材価格と人件費に分けて考える必要があります。資材価格は、かなり高い水準になりましたが、2016年は鋼材の価格が下落傾向になるなど、弱含みで落ち着きを見せています。人件費に関しては、単純労働の人手不足感は一服している一方、熟練工の不足は解消していないので、全体的にみれば高止まりしているという状況です。両方を合わせた建築費は、2017年、大きく上昇する可能性は低いものの、下落する可能性は高くないといえるでしょう。

結局、不動産価格は強含みのまま推移するといことですか。

石澤:世界的な経済問題でも発生しない限り、大都市圏については少なくとも今後2年間は不動産価格が下落する可能性は低いと考えています。大都市圏だけでなく、観光やリゾート需要が高まっている地域については局地的ですが、上昇傾向が続くでしょう。

2017年4月に予定されていた消費税増税が延期された影響は。

石澤:分譲マンションに関しては増税前の「駆け込み購入」が消滅し、2016年は大きな需要の盛り上がりは見られませんでした。デベロッパーも増税見送りの影響を見定めづらく、2016年は供給量を絞り込みました。2017年は先送りされていた供給が増える可能性が高いでしょう。しかも価格が高止まりしている不利をカバーすべく、消費者の購入意欲をかき立てるため、工夫が見られる物件も増えています。分譲マンションに関しては、魅力的な物件が販売されそうです。

2017年、不動産市場を動かす大きなトピックやキーワードはありますか。

石澤:近年のトピックとして、「インバウンド(訪日外国人旅行客)」の急増が挙げられます。当初2020年までに2,000万人の目標を掲げていたインバウンド数は、2015年に1973万人に達し、今年2016年は2,400万人に届きそうな模様。政府は2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人と目標を倍増させました。こうしたインバウンドの増加は、住宅市場にも影響を与えることでしょう。

具体的にはどんな影響が考えられますか。

石澤:インバウンドの増加は、2020年の東京オリンピック後に落ち込むような一過性のものではありません。こうした旅行客の受け皿となる宿泊施設の整備が全く追いついていない状況です。マンションを予定していた新築案件がホテルに変更されるなど、住宅供給が客室供給にシフトする可能性があります。ホテルの不足は深刻なので、カプセルホテルなどの「簡易宿所」や「民泊」が増加していくことでしょう。こうした動きは、賃貸マンションやアパートの建築を減らすので、賃貸住宅市場にも影響を与えていきます。

インバウンドの影響は、大都市を中心としたものではないのですか。

石澤:郊外や地方部など、全国的なものとして広がっていくかもしれません。先のインバウンド4,000万人という数字は、新規来訪客だけでなくリピーターとして再来日する数も多く見込まれています。リピーターは大都市だけでなく、地方へも訪れることが多くなります。こうした動きが、地方の不動産市場に影響を与えるかもしれません。

2017年にマイホーム取得を考えている方へのアドバイスは。

石澤:前に説明した通り、現在、住宅価格は高めではありますが、すぐに大幅に下がる可能性は少ないでしょう。値下がりのタイミングを待つなら長期戦を覚悟しなくてはなりません。その一方で、住宅ローンの低金利が続き、税制や補助金などの優遇制度はかってないほど充実しています。それを考えれば、2016年よりも選択肢が広がる2017年は取得のタイミングとして悪くはないと思います。

解説

石澤 卓志 

1980年代より一貫して不動産市場の調査に携わる。国土交通省・社会資本整備審議会の委員をはじめ、自治体、経団連などの委員や専門委員、国連開発機構技術顧問、上海国際金融学院客員教授などを歴任。テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍。