- 中古住宅をリフォームする際、壁紙や床材を新しくしたり、台所やトイレの設備を入れ替えたりするだけでは、気持ちよく暮らせる住まいはできません。ポイントは収納。必要な場所に、必要な量の収納スペースを設けることで、住まいは片付き、末永くすっきり暮らすことができます。そんな収納スペースのリフォームのポイントを分かりやすく紹介します。
「片付かないのは、住み手ではなく家に原因があります」と断言する一級建築士の水越美枝子さん。「収納の科学」と「視覚のマジック」を解説した第1回に続き、今回は片付けの要所である洗面所、玄関、ダイニングなどのリフォームの具体的なポイントについて紹介する。
洗面所
実はどの部屋より多目的なスペース、大容量収納は必須
洗面所でする行為を改めて考えると、洗面、歯磨き、化粧、着替え、洗濯、花瓶の水の交換、ペットの餌入れの水洗い…と多岐にわたる。家族全員が高頻度でさまざまな行為をする場所なのに、多くの家では収納スペースが洗面台の下くらいにしかなく、圧倒的に足りていない。洗面所で使うものがすべて収まる大容量の収納が必要だ。
リフォーム後の洗面所、すっきり片付いているが収納は十分用意した。
洗面台の反対側に、床から天井までの高さの収納を作った。棚の高さが調整でき、ものに合わせて空間を無駄なく仕切る。寝室に置きがちな部屋着や下着も、ここに置くほうが生活動線が短くなる。
③「マイ籠」で各自の持ち物を管理
洗面所は家族一人ひとりが個別に使う場所なので、それぞれが専用の籠にものを収納し、使うときに籠ごと出し入れすると使い勝手がいい。人がいないときは、洗面台の上には何もない状態に。
④クローゼットが隣接するとより快適
洗面所の隣にクローゼットを設けると、生活動線がよりスムーズに。朝の洗顔後、そのまま着替えを済ませ、ダイニングに行ける。帰宅時に脱いだ服を置きっ放しにしがちな問題も解決。
洗面所かクローゼットに、「1度着たけれどまだ洗濯しない服」の一時保管スペースもつくっておくと便利。毎日は洗わないエプロンもここに収納。
玄関
家の外で使うものはすべて収めて、室内に持ち込まない
玄関に収納すべきものは靴や傘だけではない。家の中で使わないものは、帰宅したタイミングで玄関に収納してしまえば室内が散らかりにくくなる。例えばコート類や通勤バッグ。郵便物などもここで開き、不要なものは即ゴミ箱に捨てて家の中に持ち込まない。家が散らからないだけでなく、忘れ物を防げるというメリットも。
一面の壁面収納で大量の片付けスペースを確保した玄関。
①コート類やバッグ、ポケットの中身も出す
かさばるジャケットやストール、手袋、バイクのヘルメットなどはすべてここで脱ぎ、収納してから部屋に入る。通勤バッグも部屋で使うものだけを取り出してしまう。
腕時計やポケットの中の定期入れ、音楽プレーヤーなどの小物は、トレーに入れて収納するといい。
②不要な郵便物は玄関で処理
ゴミ箱を収納内に入れて、不要なチラシや郵便物はここで処理。荷物を開けたり梱包したりするときのハサミやテープ、来客時にしか使わないスリッパも扉の中に。
新聞や雑誌などのリサイクルゴミも、玄関収納の中に収めるようにすると、出し忘れ防止にも。
③手の届く高さによく履く靴を
玄関ドアから一番近い場所に、家族全員の靴が収まる大容量の収納を設けた。靴の高さに合わせて棚板の位置を調節。手の届きやすい高さに、出入りの多い夫と息子の靴を収納。
④ハンカチやティッシュも玄関が適所
玄関インテリアのアクセントにしている古いたんす(写真では鏡に映る)も、無駄なく収納に生かす。引き出しの中にはハンカチやポケットティッシュ、ミントタブレットが。
ダイニング
「食器はキッチン」とは限らない。箸や小皿はこちらに。
料理を盛りつける食器はキッチンに収納すべきだが、取り皿やカップ類、箸やスプーンなどのカトラリーは、キッチンよりもダイニングに収納したほうが実は便利。テーブルで書き物をすることも多いので、文房具や家族で共有する書類もここに収納する。圧迫感がないように視線より低いカウンター収納を設けるのが“水越ルール”。
圧迫感をなくすため、カウンター収納を用いたダイニング。
①食卓で使うものを収める
取り皿や箸、卓上調味料など食事どきにテーブルで使うものは、ダイニングに収納するほうが動線を短くできる。家族も手伝いやすい。
②カトラリーは厳選して並べる
カトラリー類は、よく使うものだけを引き出しに並べて、一目で見渡せるように。あまり使わないものは別の場所にスタンバイ。
③お茶セットもダイニングに
コーヒー用ミルクやカップなど、お茶に使うものもダイニングの引き出しに。来客時に何度もキッチンとの往復をしなくてもよくなる。
④書類はボックスに立てて収納
保険や年金関係の書類、取扱説明書なども、ダイニングで見ることが多い。半透明のファイルボックスに立てて、取り出しやすく。
⑤文房具は箱で仕分ける
文房具類も、家のあちこちに散らかりやすいもの。引き出しの中を小箱などで分けて指定席を決めておき、「使ったら戻す」を習慣に。
キッチン
コックピットが理想の形、あえてコンパクトに
「キッチンは広いほど使いやすい」と誤解している人が多い。しかし忙しく動き回るキッチンでは、まるで飛行機のコックピット(操縦席)のように、手を伸ばすだけで欲しいものが取れるコンパクトな空間のほうが、動線が短くなり、料理や後片付けがしやすい。
シンクのある調理台と、背後の収納棚との間は75cm。狭く思えるが、楽に手が届くベストな幅。2人で調理するなら80cmに。食洗機から出した食器を、無駄な動作なくしまえる。
ダイニングを向いて料理できるので、「孤独感がないのがうれしい」と奥様。すべてのものに定位置ができたためカウンター上には何もない。
食器の収納は深過ぎない引き出しが使いやすい。引き出すときに力があまりいらず、上から一目で見渡せる。
狭い空間だが収納はたっぷり。シンクやコンロの下にはボウルや鍋、調味料などを収納。背後の引き出しには、食器が収まっている。
ゴミ箱はキャスター付き収納にすると、シンク近くまで引き出せる。
リビング
くつろぎの場の収納スペースは最小限でOK
リビングはゆったりとくつろぐための場所。“片付けの要所”3点を中心に各所に適切な収納を設ければ、リビングに収納しなくてはいけないものはほとんどないはず。よって、収納スペースも最小限に。
K邸のリビングには飾り棚しかない。テレビの周りにはものを置かないほうが画面にも集中できる。
第3回は応用編として、限られたスペースの収納力をアップする「適所・高密度の法則」の強化版を紹介する。
一級建築士の水越美枝子さん。
日本女子大学住居学科卒業。一級建築士事務所アトリエ・サラを秋元幾美さんと共同主宰。キッチンスペシャリスト。家事効率の良い住まいの設計やアドバイスに定評がある。著書は『いつまでも美しく暮らす住まいのルール』など
DATA
- 所在地●埼玉県春日部市
- 家族構成●夫(58歳・会社員)、妻(53歳・パートタイム勤務)、長男(24歳・会社員)
- 構造●木造2階建て
- 延べ床面積、間取り●約 148㎡、3LDK
- 住み替え時期●2014年7月
- 設計●アトリエ・サラ(水越美枝子)
執筆:文/臼井美伸(ペンギン企画室)
写真/中村風詩人
協力:『日経おとなのOFF』(日経BP社)
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。