【シリーズ連載】親子で暮らす?近くに住む?二世帯住宅と近居を考える(第四話「親子が仲良く暮らすためのポイント–介護編–」)

漫画で見る不動産購入・売却のポイントvol.32

この記事の概要

  •  共働き世帯の増加にともない近居や同居も増えているが、近くにすむだけではなく居住環境の整備なども必要。
  •  近居の場合は、実家をバリアフリー化したり耐震工事をしたり、安心・安全に暮らせる環境づくりや将来介護しやすい空間づくりをしておくようにしたい。
  •  二世帯の場合は、バリアフリー化はもちろんのこと親が住まなくなったときにどのように活用するかを考え、なるべく多様なケースに対応できるようにすることが賢い方法。
  •  近居・同居いずれにしても、老化現象やさまざまな喪失体験によって、高齢者は絶望や苦しみを味わう機会が増える。その心理は理解しながらも、無理のない介護をしていくことが大切。

第四話「親子が仲良く暮らすためのポイント–介護編–」

【Aさん・Bさん親子】
親のこれからについて、心配するようになってきた共働き夫婦のAさん。結婚後は電話やメールで連絡を取り合っていたが、最近子どもができたことで親との同居や近居を検討中。親世帯のBさんは、子育てがひと段落して夫婦水入らずの生活を送っていたものの、息子夫婦のこれからを考えて、できる限り協力したいと考えている。

親の意見はしっかり聞いておくこと

近年は共働き世帯が増加傾向にあり、夫婦がフルタイムで働いている場合、仕事と子育てが親の協力なしでは難しいのが実情です。したがって、出産をきっかけに親との同居や近居を始める子世帯も多いようです。

近居や同居は子だけでなく、親にとっても病気やケガなどで通常の生活ができなくなってしまった場合などには心強いもの。しかし、単に近くに住んでいればいいというわけではなく、その居住環境や先々の住まい方についても確認しておく必要があります。日本の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳(2016年厚生労働省調べ)となっていますが、健康に問題なく生活できるという「健康寿命」はそこからマイナス10歳ほど。つまり70歳を過ぎると、何かしらの介護が必要な人が増えてくるというのが現実です。親が健康なうちに「将来どんな暮らし方をしたいのか」を親子で話し合っておくのが賢明と言えるでしょう。

近居を選択した場合、実家は安全に暮らせる環境かを確認すること

高齢者はすり足気味になる傾向があるので、ちょっとした段差でもつまずいて転んでしまうことがあります。せっかく元気に過ごしていても、つまずきによる転倒が原因で寝たきりになって介護が必要になってしまうケースも多いようです。
転倒しないまでも、じっとしていることが増えて足腰の機能が低下してしまうこともあるので、段差の解消や手すりの取り付けなどは対応しておくといいでしょう。さらに、階段の昇降でさえも苦労するようになってしまうケースもあるので、1階に水廻り、寝室、台所を集約しておくというのもおすすめです。親が生活しやすくなるのはもちろんのこと、介護するようになった時も動線がまとまっているのは負担減につながります。
また、築年によっては耐震補強工事をする必要がある点も認識しておきましょう。1981年5月以前に建てられた住宅の場合、旧耐震基準に則っているので、大地震発生時に倒壊の危険性も高まります。
毎日安心・安全に暮らすためにも、できる限りのことはやっておくといいでしょう。

同居でもバリアフリー化は必須。将来を見据えた設計を

実家を建て替えて二世帯住宅を建築する場合、バリアフリー化は必須です。段差の解消などはもちろんのこと、将来車いす生活になることも想定し、間口を広く設けておくことも覚えておきましょう。ほかにも、ドアは高齢者が開閉しいやすい引き戸にする、高いところに収納を設けない、玄関ホールは広くしておく、アプローチはスロープにしておくなど高齢者や介護者目線で環境を整えることも忘れずに。後々改修をしなくて済むように、将来を見据えた設計をしておきましょう。
また、親がいずれ施設に入りたいという希望を持っているなら、親が住まなくなってからそのスペースをどのように活用するのかを合わせて考えておくことも必要です。活用法の例としては、「賃貸住戸に変える」、「兄弟姉妹の家族と同居する」などがあり、なるべく多様なケースに対応できるようにすることが賢い方法と言えます。

近居・同居いずれにしても無理のない介護を

一般的に人間は、30歳以降心身ともに機能が低下していきますが、これを“老化現象”と呼んでいます。症状としては、足腰や視力・聴力の衰え、嚥下障害、健忘や思い込みが強くなるなどが挙げられますが、高齢者自身が機能の低下を自覚して、落ち込んだりもどかしく思ったりすることもしばしばです。また、喪失の時代とも言われており、身体機能、社会的地位、大切な人との別れなどの喪失体験によって、絶望や苦しみを味わう機会も増えてきます。
介護する側は、居住環境の整備に加えて、高齢者の機能低下やその際に感じている気持ち、心理もある程度理解しておくことが大切です。ただし、介護は心身ともに負担が大きいもの。高齢者にイライラをぶつけられたり、自身もちょっとしたことができない親を見て、苛立ちを感じてしまうこともあるでしょう。
介護は一人で抱え込まないで、週に何日かは行政やほかの家族にお願いすることも大切です。介護が負担にならないように、さまざまな面で環境を整えるようにしましょう。

執筆

橋本 岳子 (はしもと・たかこ)

20年勤めた不動産情報サービスの会社での経験を活かし、住まい探しが初めての方にも分かりやすい、生活者の目線に立った記事の執筆活動を手がける。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。