不動産の売却には、税金の知識が欠かせない

売却代金のトラブルを回避する Vol.3

不動産を売却する時には、さまざまな税金がかかってきます。例えば、売却金額が購入価格を上回り喜んでいても、その差額(売却益)には所得税や住民税が一般的にかかります。ただし、売却益が発生した場合でも、対象がマイホーム(自己居住用住宅)なら一定の要件を満たせば控除が受けられるなど、知っていれば得をする制度もあります。

不動産売却時には、税金に関する知識やルールの理解が欠かせません。売却時にかかる税金について個別に見ていきましょう。

売却時に利益が出ると税金が発生する

不動産の売却時に利益が出た場合、譲渡所得の対象となり所得税や住民税が課せられます。譲渡所得とは、売却金額から取得費や譲渡費用を差し引いたものです。売却金額と購入価格の差のことではありません。取得費とは、購入代金に、その際に支払った仲介手数料や税金、登記費用などを加えた金額から、建物の減価償却費相当額を差し引いた金額です。譲渡費用とは、売却時に支払う仲介手数料や税金、抹消登記費用などの合計です。

(表)譲渡所得の計算式 譲渡所得= 売却金額− (取得費 + 譲渡費用)

譲渡所得にかかる所得税・住民税は、その不動産を保有していた期間によって税率が違っています。保有期間が土地建物を売った年の1月1日現在で、5年以内であれば短期譲渡所得、5年を超えた場合は長期譲渡所得として区分されます。それぞれの税額が下記になります、短期保有の売却は投資性が強いとみなされ、譲渡所得に対する税率も高くなっています。

(表)売却益が出た場合の所得税・住民税の額

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種別 区別 備考
長期譲渡所得 短期譲渡所得
所得税 ①  所得税
譲渡所得の15%
+
②  復興特別所得税
①の2.1%
①  所得税
譲渡所得の30%
+
②  復興特別所得税
①の2.1%
売却物件が自己居住用で一定の要件を満たしている場合、
①  売却益3,000万円の特別控除の特例あり
②  軽減税率の適用が受けられる
住民税 譲渡所得の
5%
譲渡所得の
9%

マイホームの売却なら税金がより安くなる

売却する不動産がマイホームだった場合、一定の要件に当てはまれば譲渡所得から特別控除ができたり、通常より低い軽減税率の適用など居住用譲渡の特例を受けることが可能です。
1つは「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と呼ばれるもので、要件を満たせば所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最大3,000万円まで控除できます。なお、この特例を受けるためには確定申告が必要になります。

特例を受けるための主な要件

  • 自己居住用の家屋や土地の売却であること。なお以前に住んでいた住宅の売却の場合、住まなくなった日から3年目の12月31日までの売却であること。
  • 売却する年の前年または前々年に、この特例を使用していないこと。また、後述する「マイホームの買換えやマイホームの交換の特例」や、売却時に譲渡損失についての損益通算や繰越控除等の特例の適用を受けていないこと。
  • 売却先が親族などの関係者でないこと。

長期使用していたマイホームなら軽減税率が適用される

マイホームとして10年以上所有していた住宅や土地の売却であれば、長期譲渡所得(上表)よりさらに低い税率が適用され、所得税や住民税がより低くなります。ただし、こちらも下記の要件を満たすことが必要です。

特例を受けるための主な要件

  • 自己居住用の家屋や土地の売却であること。以前に住んでいた住宅の売却の場合、住まなくなった日から3年目の12月31日までの売却であること。
  • 売却した年の1月1日時点において、所有期間が10年を超えていること。
  • 売却する年の前年または前々年にこの特例を受けていないこと。また「マイホームの買換えやマイホームの交換の特例」などの特例を受けていないこと。前記の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」については重ねて受けることができる。

軽減される税額は以下になります。

マイホームを売ったときの軽減税率の特例

長期譲渡所得 所得税 住民税
6,000万円以下 譲渡所得の10% 4%
6,000万円超 譲渡所得の15% 5%

上記の2つの特例は、両方同時に使うことが可能です。ただし、住宅ローン控除との併用はできません。

なお2037年までは、所得税と併せて復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。

買い換えの場合は課税が持ち越しになる特例がある

マイホームの買い換えの場合、譲渡所得が発生してもその時点で課税されず、買い換えたマイホームを将来売却する時点まで繰り延べることができます。これを「特定の居住用財産の買換えの特例」といいます。この特例の主な適用要件は以下になります。

特例を受けるための主な要件

  • 自己居住用の住宅であり、売却する年の1月1日時点で所有期間、居住期間共に10年を超えていること(現在の特例では2021年12月31日までの売却とされています)。
  • 以前に住んでいた住宅の売却の場合、住まなくなった日から3年目の12月31日までの売却であること。
  • 売却先が親族などの関係者でないこと。
  • 売却する前年、前々年に前記2つの特例を受けていないこと。
  • 買い換えるマイホームが、耐火建築物の中古住宅である場合には、取得の日以前25年以内に建築されたもの。または、耐火建築物以外の中古住宅および耐火建築物である中古住宅のうち一定の耐震基準を満たすもの。
  • 買い換える建物の床面積が50平方メートル以上のものであり、買い換える土地の面積が500平方メートル以下のものであること。

上記の要件にあるように、前述の「3,000万円の特別控除の特例」や「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」との併用はできません。また住宅ローン控除と重複しての適用もできません。

なお、譲渡所得はあくまで次のマイホーム売却時点までの繰り延べであって、譲渡所得自体が非課税になるわけではありません。

特例によって売却損が繰り越せる

さて、これまでは売却時に利益が出た場合の税金について説明してきましたが、前述の計算式によると損失が生じるケースもあることでしょう。この場合、所得税や住民税がかからないのは当然ですが、その損失額を他の土地や建物の譲渡所得から控除することができます。ただし、控除をしてもなお控除しきれない損失の金額は、事業所得や給与所得など他の所得と損益通算することはできないというのが原則です。

ただし、これについても2つの特例が設けられています。1つ目が「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。マイホーム(旧居宅)を売却して、新たにマイホーム(新居宅)を購入した場合に、旧居宅の譲渡による損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができるという特例です。さらに、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3 年内に繰り越して控除(繰越控除)することができます。

特例を受けるための主な条件

  • 自己居住用の住宅を譲渡すること。以前に住んでいた自己居住用住宅の場合には、住まなくなった日から3年目の12月31日までに譲渡すること。また、親族等への譲渡は除かれる。
  • 譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超える資産(旧居宅)で日本国内にあるものの譲渡であること。
  • 譲渡の年の前年の1月1日から売却の年の翌年12月31日までの間に、日本国内にある資産(新居宅)で家屋の床面積が50平方メートル以上であるものを取得すること。
  • 買換資産(新居宅)を取得した年の翌年12月31日までの間に居住の用に供することまたは供する見込みであること。
  • 買換資産(新居宅)を取得した年の12月31日において買換資産について償還期間10年以上の住宅ローンを有すること。

もう1つが、「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができます。さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除(繰越控除)することができます。特例は、新たなマイホーム(買換資産)を取得しない場合であっても適用することができます。

特例を受けるための主な条件

  • 自己居住用の住宅を譲渡すること。なお、以前に住んでいた自己居住用住宅の場合には、住まなくなった日から3年目の12月31日までに譲渡すること。また、親族等への譲渡は除かれる。
  • 譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超える自己居住用住宅で日本国内にあるものの譲渡であること。
  • 譲渡した自己居住用住宅の売買契約日の前日において、償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること。譲渡価額が住宅ローンの残高を下回っていること。

「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の損益通算イメージ

出典:国税庁ホームページ

5つの特例を生かして節税を

以上、マイホームの売却の際の5つの特例を整理すると、以下のようになります。

マイホーム売却時に検討可能な特例

譲渡益の有無 検討可能な特例(いずれも個別の要件あり)
譲渡益が発生した場合 ①  マイホームを譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
②  10年超所有軽減税率の特例
③  特定のマイホームの買換えの特例
譲渡損が発生した場合 ④  マイホームの買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
⑤  特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除

このように売却の際は、利益が出ても出なくても、活用可能な特例が複数、存在します。ただ特例ですから、適用期間には期限があります。それを外れると利用できなくなります。売却益や売却損が発生しそうな場合は、特例の期間を確認して、忘れずに活用しましょう。

相続した不動産を売却する場合は?

以上、売却益や売却損についての税金を解説してきましたが、それを計算するためには取得価格や取得に関する費用が分からなくてはなりません。しかし、最近、増加している親の実家などを相続して売却する場合、自分が購入したわけではないので契約書が見つからず価格が明確ではないケース、さらには、先祖伝来の家で取得時期すらも不明といったケースが少なくありません。

 こうした場合、「概算取得費」として譲渡収入金額の5%を取得費とすることができます。仮に、取得費が不明な土地建物を3,000万円で売却した場合は、売却金額の5%相当額の150万円を取得費と見なすということです。

 ただし、1990年代のバブル期に購入したことが分かっているような場合は、それより高額な可能性が非常に高いでしょう。そうした場合は、契約書や領収書等以外にも実際の購入価額を証明できるものがあれば、実額で計算することができる可能性があります。購入価格を証明できる書類としては、例えば住宅ローンの契約書や、ローンの支払いを示す通帳といったものが考えられます。これらを用意したうえで購入時の状況説明と契約書類等の紛失理由を書いた「申述書」を確定申告書に添付し、税務署に信憑性があると見なされれば申告は認められます。つまり、取得費が増えて譲渡益を減らすことが可能になるということです。

 不動産の売却では、所有期間の長期と短期で税率が大きく変わります。相続に関連する売却の場合、所有期間は、被相続人(=前所有者)がその不動産を所有していた期間を引き継げます。これにより相続によって取得したのが5年以内であっても、前所有者の所有期間を合算するため長期譲渡所得とみなされるケースがあります。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。「中古住宅を宝の山に変える」「実家の片付け 活かし方」(共に日経BP社・共著)

本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
税金については、法律改正等により、内容が変更となる場合があります。実際の不動産取引にかかわる税法上の適応の可否については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。