売却価格、どう調べる? いくらに値付けする?

これで迷わない不動産売却ステップ・バイ・ステップ Vol.2

住み替えや実家の売却などの理由で持ち家の売却を検討する場合、真っ先に知りたいのはいくらで売れるかではないでしょうか。特に住み替えでは、売却額が分からないと購入不動産の検討ができないので、概算値でも知りたいところです。不動産は1つとして同じものがない、個別性の高いものです。そのため、価格の判断が非常に難しいことは事実ですが、まずはおおよその売却可能額を確認しておきましょう。

もちろん、不動産会社に査定を依頼すれば具体的な売却可能額が提示されます。しかし、その額が妥当なのかは売主が判断しなくてはなりません。納得のいく売却を実現するためには、ある程度、自分自身で調査、検討すべきでしょう。誰にでも手に入る公開情報によって、専門家でなくてもおおよその売却可能額は把握することができます。

少し専門的になりますが、不動産価格の主な評価手法には「原価法」「収益還元法」「取引事例比較法」の3種類があります(下表)。原価法は再調達原価(建物の建築費、土地価格など計算した現時点で取得できる価格)を調べるのが難しいこと、収益還元法は賃貸物件に向いているといった問題や特徴があります。一般の売主が分譲マンションや一戸建ての概算価格を把握するなら、取引事例比較法が参照しやすいかと思います。

不動産評価の3つの手法

名称 やり方 呼び方
原価法 再調達原価を基に、補正を行なう 積算価格
収益還元法 将来得られる収益を現在価値に換算する 収益価格
取引事例比較法 近隣の取引事例と比較し、補正を行う 比準価格

物件検索サイトの価格は取引が成立した値付けではない

取引事例比較法は、売却対象物件と似た条件の物件を探し出し、それらがいくらで取り引きされているかを調べて、売却額の概算を確認しようというものです。一般の方が取引事例を調べるのは難しいので、基本的に近隣物件の売却希望価格をそれに代替することになります。売却希望価格の確認は、インターネットでの検索が便利です。不動産会社のWEBサイトにアクセスし、登録されている物件リストをもとに、売却するマンションに近い条件の情報を確認していきます。

条件例としては、「築年」「専有面積」「駅からの距離」「地区(エリア)」「間取り」などが挙げられます。WEBサイトの多くはソート(並び替え)できる機能が付いていますから、それらを上手に活用して、似た物件を見つけていきましょう。マンションのグレードや管理状況、用途地域など、こうしたサイトの情報からは判断できない要素もありますが、知っている範囲で類似要素について加味します。

1つとして同じ物件はない不動産ですから、たとえ売却予定物件と同じマンションに売り物件があっても階数、間取り、広さなどが違います。同じマンションでなければ、立地、設備グレード、管理などが異なっているでしょう。こうした違いを考えて価格を「補正」する必要があります。

この場合の注意点を2つ挙げておきましょう。1つは総額ではなく、面積当たりの価格(㎡単価、坪単価)で比較することです。1つとして同じ物件がない不動産の場合、まったく同じ広さの物件を見つけるのは困難なので総額で比較は困難です。そのために1㎡当たり、1坪当たりといった面積当たりの価格で比較します。ただし、あまり大きさやグレードなどが違っていては面積当たりの価格でも比較が難しくなることを覚えておきましょう。

もう1つは検索した販売価格は「売却希望価格」であって「成約価格」ではないことです。WEBサイトで調べることができるのは現時点の所有者が「売りたい」という希望額。実際には、そこから価格交渉などが行われ、売主と買主の合意ができて契約が成立します。調査した価格では取引は成立していないともいえるので、実際は多少安くなる可能性があることを覚悟しておく必要があるのです。

土地総合情報システムそれでは、取引が成約した価格を一般の売主が調べる方法はないのでしょうか。国土交通省は、不動産の取引価格や地価公示、都道府県地価調査の価格を検索できる「不動産の取引価格情報提供制度」を整備し、「土地総合情報システム」(http://www.land.mlit.go.jp/webland/)としてインターネット上で公開しています。件数は少ないものの、近年取り引きのあった事例を最寄り駅ごとにデータベース化していますから、こちらも参考になります。

売却査定を依頼し、仲介業者の示す数字を確認する

ある程度、自分で情報を調べたら、実際に不動産会社に査定を依頼してみましょう。最近は、直接、 店舗を訪れなくても、インターネットを使えば簡単に依頼できます。複数の不動産会社に一括で査定を依頼できるWEBサイトや、インターネット上で概算を教えてもらえる簡易査定のWEBサイトなど色々なタイプがあるので、売却意思の強弱などで使い分けてください。

不動産会社の査定価格は「この金額であればお客様を見つけられそうです」という意味です。不動産会社は、不動産の評価額や売買価格についてお客様に意見を提供する時、法令により根拠を明らかにする義務があります。その根拠となる評価手法は前述の3つで、中でも重視するのは取引事例比較法です。そうなると、自分で検討した概算値とあまり変わりはないのではと思われるかもしれません。

実は、不動産会社が査定する際は、レインズという不動産事業者を結んだネットワークのデータを活用して、成約した取引事例を詳細に調べることができるのです。「いつごろ、いくらで成約したのか」が分かるので、それに現時点の不動産市況、顧客ニーズを判断材料に加えることで、精度の高い査定価格が可能になるのです。

レインズのデータは一般の売主にはオープンになっていませんが、レインズマーケットインフォメーション(http://www.contract.reins.or.jp/search/displayAreaConditionBLogic.do)で、簡略化されたデータは調べることができるので参考にしてください。

複数に不動産会社から提示された査定価格には相当開きがあることもあります。同じような取引事例を参考にしても、不動産市況や顧客ニーズの見方が異なるので、違いが生じるのです。ただ、一番査定価格の高い不動産会社に売却を依頼すればよいというものではありません。不動産会社はあくまで「仲介」ですから、実際にその数字で購入してくれる買い主を見つけられない限り、高い数字も“机上の空論”になってしまいます。

実際に売値として営業する価格はあくまで売主が決めます。査定価格はその大切な判断材料です。その算出にどれだけの根拠があるのか、どれだけ妥当な価格を示しているのかにその不動産会社の実力、姿勢が表れます。本当に信頼できる不動産会社を慎重に選びましょう。

執筆

谷内信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。